犬の食事に含まれる三大栄養素の割合
はじめまして。清水と申します。このコラムでは、わんちゃんの食事や栄養のことを中心にご紹介いたします。
今回は、犬の食事に含まれる三大栄養素の割合について、人と比較しながらの説明です。
三大栄養素とは
三大栄養素とは、たんぱく質、脂質、炭水化物のことです。犬の栄養では、粗タンパク質、粗脂肪、可溶性無窒素物と表されることがあります。ここでは、タンパク質、脂肪、炭水化物で話をします。
タンパク質は、肉や魚、豆類に多く含まれ、消化管内でアミノ酸に分解された後、体内に吸収されます。これらアミノ酸は、体を構成するタンパク質の材料になり、また、エネルギー源にもなります。
タンパク質を構成するアミノ酸の半分が必須アミノ酸であり(犬はアルギニンも必須アミノ酸)、タンパク質は必ず摂取しなくてはいけません。アミノ酸は、筋肉タンパク質に合成されるだけでなく、細胞の内外に存在する酵素、血液中を流れるアルブミンや免疫をつかさどるグロブリンのようなタンパク質にも合成されます。
脂肪は、植物油や肉や魚の脂身に含まれます。脂肪は消化管内で胆汁により乳化され消化酵素で分解された後、リンパ管経由で体内に吸収されます。脂肪に含まれる必須脂肪酸であるリノール酸は、体内で合成することができないため、必ず摂取しなくてはいけません。
細胞膜は脂質二重膜とも呼ばれるように、脂肪は細胞などの膜成分になります。またエネルギー源でもあり、タンパク質や炭水化物よりグラムあたりのエネルギーが多く、貯蔵に適した栄養素です。
炭水化物は、ごはんやパンに多く含まれ、消化管内でブドウ糖など単糖類に分解された後、吸収されます。ブドウ糖のみをエネルギーとして利用する組織もあり、炭水化物はエネルギー供給源として重要ですが、体内ではタンパク質や脂肪からブドウ糖を合成することもできます。
炭水化物は、効率の良いエネルギー源であり、食物繊維としての役割もあり、適切に摂取しましょう。
犬と人の食事の三大栄養素の割合(すべて三大栄養素の重さの百分比で表しています)
犬はどのような割合で三大栄養素を摂取しているのでしょうか?
平均的な食事の場合
犬の平均的な食事の三大栄養素の割合は、環境省の発行している「飼い主のためのペットフード・ガイドライン(第2版)」にまとめられています。平均的なドッグフードの場合、タンパク質が25%、脂肪が15%、炭水化物が60%の割合です。
私たち日本人の平均的な食事では、タンパク質が18%、脂肪が16%、炭水化物が66%になります(平成30年度の国民健康・栄養調査のデータより)。
平均的な食事の場合、脂肪の割合は犬も人も同程度ですが、犬の方がタンパク質を多く、炭水化物を少ない割合で摂取しています。
食事の基準の場合
では、平均的な食事ではなく、食事の基準の場合はどうでしょうか?
犬の食事の基準はいくつかありますが、国内では、「ペットフードの表示に関する公正競争規約」によって、ペットフードの品質基準にAAFCO養分基準を採用しています。この基準を満たしたペットフードは、「毎日の主要な食事として給与することを目的とし、当該ペットフード及び水のみで指定された成長段階における健康を維持できるような栄養的にバランスのとれたもの」である「総合栄養食」と表示することができます。また、飼い主様が誤解してしまうような「完全栄養食」のような表示を禁止しています。
このAAFCO養分基準では、タンパク質と脂肪にはペットフードに最低限含めないといけない量(最小量;Minimum)が定められていますが、炭水化物は定められていないため、基準を三大栄養素の百分比で表すことができません。基準による比較は、栄養素単位で行います。
私たちの食事の基準には、厚生労働省が作成している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」があります。各栄養素には、不足を回避するために推奨量などが、摂取しすぎて問題が起こらないように目標量などが定められています。
基準による比較は、基準作成目的の近い犬のAAFCO養分基準の最小量と日本人の食事摂取基準の推奨量で行う方がよいと考えられます。三大栄養素では、タンパク質に両基準値が設定されているため比較を行うことができます。
必要なタンパク質量(1000 kcalあたり)を比較すると、成犬の最小量は45グラム、成人(30~49歳の身体活動レベルⅡの場合)の推奨量は24グラムです。犬は人のおよそ2倍のタンパク質量が必要になっています。
現在、ペットフードは、ペットショップやスーパーのように店頭で購入できる製品、そしてインターネットからのみ購入できる製品があります。国内製品だけでなく輸入製品も合わせると非常に多くの種類があります。これらペットフードの中には、総合栄養食ではない(AAFCO養分基準を満たしていない)フードもあるため、毎日の食事として与える場合は、総合栄養食と表記のある製品を選びましょう。
犬に選択させた場合
では、人間が作ったドッグフードではなく、犬が選んだ食事の三大栄養素の割合はどうなるのでしょうか?
犬に食事を選択させた研究では、タンパク質が48%、脂肪が41%、炭水化物が11%でした。
先ほどの「平均的な食事」より、犬の選択した食事は、タンパク質と脂肪の割合が多くなっています。
オオカミの場合
では、犬の祖先と考えられているオオカミはどのような割合の食事を食べているのでしょうか?
オオカミが何を食べていたかを調査した研究では、タンパク質が74%、脂肪が25%、炭水化物がわずか1%でした。
研究の方法は違いますが、「犬の選択した食事」より、オオカミの食事は、さらに炭水化物の割合が少なくなっています。現代の犬は炭水化物の消化に関して適応してきた報告もあり、犬は雑食に慣れてきていると考えられます。
みなさんのわんちゃんは?
みなさんのわんちゃんは、どのような割合のドッグフードですか?
手作り食では、わんちゃんにお肉ばかり与えていませんか?
脂肪や炭水化物を極端に制限していませんか?
人間と同じ三大栄養素の割合の食事を与えていませんか?
わんちゃんは人よりタンパク質を多く必要とします。そして、脂肪も大切な栄養素です。
脂肪摂取を避けるために、鶏肉の皮をはがして捨てていませんか?鶏皮には、大切な脂肪もコラーゲンも含まれています。
食材は大切に頂き、食事の食べすぎに注意しましょう。
食べた食事の消化や吸収、そしてその後の体内での栄養素の利用は、犬と人では同様に行われるところも多くありますが、異なるところもあります。この違いが、三大栄養素、そしてビタミンやミネラルの必要な種類や量の違いになります。人がうまく利用できる食材、栄養素が犬では苦手な場合もあります。
わんちゃんにはわんちゃんのための食事を考えてあげましょう。