犬の皮膚と被毛と大切な食事とは
みなさんのわんちゃんはどのような皮膚や被毛をしていますか?
真っ黒ですか?それとも白?ぶち?
ツンツンした被毛?ふわふわ被毛?
今回は、わんちゃんの皮膚や被毛について、そして健康な皮膚や被毛のための食事についてのお話です。
犬の皮膚ついて
皮膚は体の中で最も大きな器官です。その外界に接している体表部分が表皮、その下が真皮という組織になります。
表皮には、角化細胞と非角化細胞があります。角化細胞は基底層という表皮の一番深い場所で分裂して誕生します。そこから、有棘層、顆粒層と徐々に体の表面に移動して角質層にたどり着き、外界から体を保護する役割を果たし、最終的に垢となって剥がれ落ちていきます。非角化細胞には、皮膚や被毛の色に重要な働きのあるメラニン細胞や、免疫反応にかかわるランゲルハンス細胞などがあります。
皮膚は体の背側や外側では厚く、腹部のような体の内側では薄く、肉球のような場所では分厚くなっています。
皮膚の役割は、体を守るためのバリアです。体の外からの刺激物や細菌などが体内に侵入しないように、そして体の内側から水分などが出ていかないように働きます。皮膚が健全であるということは、健康を保つ意味でも大切です。
犬の皮膚は人より薄い構造ですが、被毛が覆うことで体を守ることができます。
犬の被毛について
犬の被毛は表皮の下の真皮から発生しています。牛や馬ではひとつの毛穴から1本の毛が出ていますが、犬はひとつの毛穴から複数の毛が出ています。羊も顔などの毛は1本ですが、羊毛部分は犬と同じで複数の毛が出ています。
このひとつの毛穴から複数の毛が出るタイプの毛には、一次毛と二次毛という毛の種類があります。一次毛は上毛(オーバーコート)とも呼ばれ、皮膚を保護し、二次毛は下毛(アンダーコート)とも呼ばれ、柔らかく体温を保ちます。
犬の被毛にはこの一次毛と二次毛の両方を持つダブルコートの犬種と、一次毛のみを持つシングルコートの犬種があります。犬の祖先と考えられているオオカミはダブルコートです。季節による毛の抜け変わりは、二次毛の方がより生じやすいため、シングルコートの犬は、あまり毛が抜けません。
被毛には向きがあります。多くは頭部から尾部や足先の方向に流れていますが、ときどき、らせん状に渦を巻いている箇所があります。鼻の上、首の下の前足の付け根付近、肘やお尻の横などにあります。みなさんのわんちゃんにはこの毛渦、ありますか?
被毛の色は、メラニン細胞によって左右されます。メラニン細胞内でメラニンはアミノ酸の一つであるチロシンから合成され、暗褐色の色素であるユーメラニンや、黄赤色のフェオメラニンとなり、被毛の色を決めています。チロシンは被毛だけでなく、虹彩という黒目の部分の色素にも必要です。
アルビノはこのメラニンを合成するための酵素がないため皮膚も被毛も白くなります。メラニン色素の基であるチロシンやチロシンの基である必須アミノ酸のフェニルアラニンが不足しても、被毛色に変化が生じてしまいます。これは特に黒色の犬で顕著に表れ、赤褐色の被毛になってしまいます。
ビタミンや着色料の研究では、犬の被毛がオレンジ色や緑色になった報告もありますが、通常の食事でこのようなことは起こりません。
毛色の薄い犬種、特に白い毛の場合、涙や唾液によって、目元や口の周囲、舐めてしまう足先などの毛が茶色く変色してしまうこと(涙焼け、よだれ焼け)があります。食事やアレルギーの関与も疑われていますが、湿っている状態が長く続くことによる皮膚常在菌の変化も変色の一因と考えられます。毛の変色がひどい場合、目や口の異常がないか、食事に問題がないか、動物病院で診てもらいましょう。
皮膚被毛のための栄養素
健康な被毛のためには、もちろん皮膚の状態も健全でなければいけません。
皮膚や被毛には、タンパク質が多く必要です。特に、含硫アミノ酸であるシステインは、皮膚や被毛に多く含まれるケラチンというタンパク質の重要な材料です。システインの基となるメチオニンとともに、必要なアミノ酸です。上記したように、毛色に重要な芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンやチロシンも十分摂取しなくてはいけません。犬は、これらのアミノ酸の摂取が不足すると皮膚や被毛の異常だけでなく、食欲が落ち、体重が減ってしまいます。
皮膚の真皮部分には、コラーゲンが多く含まれ、その材料もタンパク質です。プロリンは皮膚のコラーゲン形成に欠かせないアミノ酸です。
このように、皮膚や被毛に必要なアミノ酸が不足しないように、十分なタンパク質の摂取が必要です。また、皮膚や被毛の代謝には、銅や亜鉛といったミネラルも大切です。脂質成分であるリノール酸は皮膚の水分を保持する役割があり、ビタミンの中には皮膚からの水分損失を改善する作用を持つものもあります。タンパク質だけでなく、他の栄養素もバランスよく摂取できるように、わんちゃんの食事は考えてあげましょう。
犬が人より皮膚被毛のために食事の重要な理由
皮膚の角質層はバリアに重要な層ですが、この角質層になるまでの周期である皮膚のターンオーバーは、犬の場合、人より速くおよそ20日間です。基底層で角化細胞の分裂と適切な成長が行われるためには、十分な栄養素を取り入れなければいけません。
犬は人と比べ、体の表面(皮膚)の多くを被毛で覆われており、皮膚被毛のためにより多くの栄養が必要です。また、体重あたりの体表面積が大きいために大型犬より小型犬の方が、さらに、毛の長い犬種や密度の濃い犬種、毛の抜け変わりの時期では、被毛のための栄養の重要性は増し、より多くのタンパク質が必要だと考えられます。
皮膚被毛に必要な栄養素の不足によって、被毛は光沢を失い、折れやすく、色が薄くなり、脱毛しやすく、また、なかなか発毛しない状態になってしまいます。皮膚は角化異常によりフケが増え、べとついたり、逆にかさついたり、薄く弾力のない色素沈着した皮膚になってしまいます。皮膚のバリア機能が悪くなるため、細菌やマラセチアが異常に増殖してしまうこともあります。また、傷の治りが悪くなったり、寝ていることの多い老犬や病気の犬では褥瘡の心配も出てきます。
犬の皮膚病
犬の皮膚病は、食事や環境のかかわるアレルギーが原因の場合もありますが、ダニやノミのような皮膚への寄生虫、肝臓や腎臓、胃腸の病気、そして偏った食生活の結果、皮膚病になる場合もあります。
皮膚に異常がある場合、ターンオーバーが速まり、きちんとしたバリア機能のある角質層を形成できず、ふけが多く認められることがあります。皮膚の異常時は、タンパク質をはじめとした栄養の重要性はさらに高まります。
健康な皮膚被毛のために
わんちゃんの食事を見直したり、考えたりすることはもちろん大切ですが、まずはわんちゃんに触れ、皮膚や被毛を観察し、匂いを嗅いでみましょう。日頃からたくさん触って、ともに過ごすことで、わんちゃんの変化に気づきやすくなりますし、仲良くなれます。