犬の肥満(中編)肥満の問題点と減量のためにできること

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 「犬の肥満」の前編ではわんちゃんの太る原因について説明しました。この中編では、肥満によって生じる問題点と減量(ダイエット)のために必要なことやできることを紹介します。

肥満によって生じる可能性のある病気

関節疾患

 肥満の犬は関節炎を伴っていることがしばしばあります。これは関節炎になると運動できずに肥満になり、肥満になると体重負荷で関節を痛めてしまうように、肥満が関節炎の原因にも結果にもなるためです。

 小型犬には、膝の関節部分にある膝蓋骨という骨が生まれつき外れやすい膝蓋骨脱臼という病気があります。脱臼と聞くと痛そうですが、痛みがほとんどなく飼い主が気づかない場合もあります。膝蓋骨の脱臼が長期に続くことで股関節に異常が生じ、これが後々痛みの原因になる場合もあります。

 また、加齢に伴う筋肉量の低下や関節の柔軟性の低下は、関節への体重負荷を軽減する能力を下げてしまいます。成長期の動物も骨格が十分に成長する前に太り過ぎると、重い体重が関節に影響を及ぼすため特に大型犬の子犬は太り過ぎないような食事管理が必要です。

 このように成長期やシニアの時期だけでなく、成犬の間も気づいていない関節疾患や外傷歴があると、肥満による過度の体重負荷はより早期により深刻な関節疾患につながるかもしれません。

呼吸器・循環器疾患

 肥満は過剰な脂肪の蓄積です。鼻腔や気管、気管支、肺のある胸腔内など、呼吸器周囲組織への過剰な脂肪蓄積は呼吸器の機能を下げてしまいます。

 犬には気管虚脱という気管が潰れて狭くなり呼吸困難になる病気があり、小型犬に多く発生します。また、フレンチブルドッグのような短頭種は太りやすく、鼻の穴が狭い外鼻孔狭窄、いびきや気道閉塞の原因にもなる軟口蓋過長症のような呼吸器の病気も少なくありません。肥満はこれら病気を悪化させる可能性があります。

 犬は体温が上がると、パンティングという口を開けて舌をなびかせ浅くて速い呼吸をすることで体温を下げます。肥満になると脂肪によって熱がこもりやすくなり、熱中症にも注意が必要です。

動物病院の検査や手術の問題

 動物病院では、聴診器を用いて心臓や肺の音を確認します。肥満によって蓄積された分厚い脂肪の向こう側にある心臓や肺の音は、聴診の際にはとても小さく聞こえづらくなってしまいます。

 また動物病院では、妊娠時の赤ちゃんの確認や、肝臓や腎臓などの異常を探すために、超音波(エコー)検査を行います。この検査も脂肪が多いととても見づらく、病気のある場所を探しにくくなります。

 外科手術を行う際も脂肪が多いとさまざまなリスクを伴います。手術の際には動物に痛みや恐怖を与えないため、そして動かないようにするために全身麻酔をかけます。全身麻酔はかかり過ぎれば命にかかわり、浅すぎれば手術ができません。肥満により脂肪が多いと麻酔のかかりが悪かったり、深くかかり過ぎたりします。お腹の中の手術では、目的の手術部位にたどり着くために押し寄せてくる内臓脂肪への処置も行わなければいけません。手術時間(麻酔時間)もその分長くかかってしまいます。

 この検査や手術の難易度の増加は肥満が直接もたらしうる病気ではありませんが、肥満によって異常(病気)の発見が遅れたり、病気の回復に影響を及ぼす可能性があります。

その他

 このほか肥満の犬は、運動を嫌がり疲れやすく、皮膚病や糖尿病、腫瘍の発生や寿命短縮などとの関連もあります。

犬の減量に必要なこと

①飼い主のモチベーション

 どんなに素晴らしい減量方法でも、飼い主にやる気がなければ、犬の減量には結びつきません。

 飼い主のやる気は、自らが行う犬への食事制限や運動だけではありません。同居家族やお散歩仲間など、犬に食事やおやつを与える人達に注意を呼びかける意志も大切です。

②太り具合のチェック

 体重測定だけでなく、現在どの程度太っているかも評価します。これは理想体重を決める際にも必要です。

 動物病院では、体重測定や触診による筋肉量チェックのほか、太り具合をウエストのくびれなど体型によってチェックするボディ・コンディション・スコア(Body Condition Score、BCS)という5段階(スコア3が理想的な体型)あるいは9段階(スコア5が理想的)に分類する方法をよく用います。痩せた体型になるにつれ数値を小さく、太った体型になるほど数値を大きく評価します。

 飼い主自ら評価することもできますが、BCSは主観が入るため、甘い評価になっていないかを確認するためにも、動物病院の評価と比較しましょう。

 このBCSの値から体脂肪率の推測値が設定されています。9段階に分類するBCSの場合、BCS5が理想的体型、体脂肪率が20~24%です。BCSの段階が1つ上がるごとに体脂肪率が5%ずつ増え、BCS6では体脂肪率が25~29%になります。

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③理想体重の設定

 理想体重の際の体脂肪率を20%とすると、犬のBCSより推測した体脂肪率から、以下の式を用いて理想体重を決めることができます。

 理想体重(kg)= 現在の体重(kg)×(100 – 体脂肪率)÷ 80

 例えば、現在の体重が7kgで、BCSが9段階の8(体脂肪率35~39%)で、体脂肪率を36%とした場合、理想体重は5.6kgになります。

 現在の体重 7kg×(100 – 体脂肪率36%=64)÷ 80=理想体重 5.6kg

 もう一つの理想体重の設定方法は、理想的な体型だった頃の体重に設定する方法ですが、これはその頃の体重がわからなければ設定できません。

④現在の食事の内容、量、与え方の確認

 子犬用フードなど、高カロリーのフードや高脂肪量のフードは太りやすくなります。また、ドライフードをいつでも自由に好きなだけ食べることができるように与える自由採食の与え方では、多くの犬が食べすぎてしまいます。

 このため、太り過ぎの際はフードの内容をチェックし、減量のためのフードを選ぶ際にはエネルギー量だけでなく、タンパク質や脂肪の量も比較しましょう。

 フードパッケージに記載されている通りに与えても太ることはよくあります。記載されているフード量が適切な場合もあれば、足りなくて痩せてしまう場合もあり、過剰で太ってしまう場合もあります。現在食べているフード量やおやつ量を確認し、そこから1日に摂取しているエネルギー量の合計を計算しましょう。

⑤減量プログラムの作成

 減量のためのエネルギー量は、③で求めた理想体重(現在の体重ではありません)のRER(安静時エネルギー要求量)の8割に設定する方法があります。

 RERを求めるための式(RER = 70×(体重kg)0.75)は、計算機が必要ですが、体重が2~45kgの犬の場合、以下の簡易式を利用できます。

 RER(簡易式) = 30 ×(体重 kg)+ 70

 例えば理想体重が5.6kgの犬の場合、計算機が必要な方法ではRERが255kcal、その8割に設定するので204kcalが減量のためのエネルギー量です。簡易式ではRERが238kcal、その8割は190kcalになります。

 30×体重5.6kg+70=RER 238kcal×減量のための設定8割=190kcal

 もう一つの設定方法に、④で計算した現在摂取している1日のエネルギー量の8割にする方法があります。

 減量のための目標エネルギーは、厳しすぎると犬にとって食べていい量(飼い主にとって与えていい量)が少なく、辛くなり、減量の中止や脱落につながってしまうかもしれません。無理なく行うことができる小さな目標も設定しましょう。小さな目標は達成できればうれしいですし、減量できなかった場合でも目標が小さすぎたためと考え、次のより厳しい目標設定につなげましょう。

 減量プログラムの設定は飼い主自ら行うことができますが、犬への影響を考えると動物病院で一緒に実施するほうが安全です。肥満によって生じてしまった問題がないか、肥満とは関係なく体に異常がないのか、あるいは肥満の原因となる病気がないのか、血液検査やレントゲン検査などで確認してもらいましょう。その結果を基に、無理なく、しかし着実に減量するための指導を仰ぐことができ、応援してもらえます。

⑥ ①~⑤の実施と確認と見直し

 上記①~⑤の実施後は、定期的に減量の成果を確認しましょう。

 減量の開始時期に痩せにくかったり、調子よく減量できていても途中で減量スピードが遅くなったり、止まったり、体重が増えてしまう場合もあります。

 焦らず、長期スパンで減量は行いましょう。常に意識して管理を行えば減量につながりますが、行わなければ減量できません。

 減量が順調であっても、急な体重減少は好ましくありません。減量スピードは、週に体重の1~2%が推奨されています。これ以上体重が減るようであっても、食事量や食事内容を見直す対策を取りましょう。

 減量を途中で中止や怠けてしまった場合も、再度チャレンジしてください!

 次回は、犬の減量のための食事や注意点についてです。