シニア犬(老犬)の食事

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 前回はシニア犬のケアや検査について説明しました。食事についても少し触れましたが、今回はさらに掘り下げて解説します。

 若くて元気な時期は、食事内容をあまり気にしなくてもそれほど問題になりませんが、病気になったり、シニアになって体の機能が衰えてきたりすると、食事の内容は重要になります。また、シニア期になっても元気なわんちゃんもいますが、軽い持病がある、あるいは深刻な病気や複数の病気を抱えているわんちゃんもいます。このため、すべてのシニア犬に同じ食事が適しているとは限りません。

 ここでは、主に病気のないシニア犬のための食事について解説します。みなさんのわんちゃんがどの程度のシニアなのか、どのようなタイプの食事が必要なのか、食事選びの参考になれば幸いです。

健康なシニア犬に配慮されることの多い栄養素

 病気のない健康なシニア犬といっても、シニアです。若いころとは異なります。加齢に伴い消化機能などさまざまな機能が低下し、筋肉は衰え、痩せてきたり、脂肪太りしてきたりします。これらの対策のために配慮される栄養素を紹介します。

①タンパク質

 シニア犬で心配される病気に慢性腎臓病があり、この病気が進行した際にはタンパク質の少ない食事が必要になります。シニア犬用のドッグフードには、タンパク質量を抑えたフードがありますが、タンパク質は筋肉など体の材料となるだけでなく免疫力や細胞内外の化学反応にかかわる酵素の素であり、摂取量は少なすぎてもいけません。パッケージに栄養基準をクリアした表示である「総合栄養食」の記載があれば、通常、成犬に必要なタンパク質量は含まれているため、少なすぎることはありません。

 一方、筋肉量の低下や脂肪太りの対策のために、タンパク質を増量した食事もあります。

 シニア犬だからといってすべての犬がタンパク質量を減らす必要があるとは限りませんが、シニア犬に高タンパク質な食事を与え続けて大丈夫かどうかもわかりません。タンパク質を代謝する腎臓や肝臓に異常がないかどうか、血液検査などで確認しましょう。

②リン

 リンは、慢性腎臓病の際にタンパク質以上に注意の必要な栄養素です。慢性腎臓病の療法食(病気専用の食事)では、総合栄養食のリンの基準を下回る量に制限されています。シニア犬のドッグフードにも配慮されていることがありますが、タンパク質と同様に、「総合栄養食」と表示があれば、通常、基準の量を下回ることはなく、リンの制限が必要な病気の場合、制限の程度が不十分かもしれません。病気の際はかかりつけの獣医師に相談しましょう。

③脂質

 必須脂肪酸は皮膚の恒常性や神経の発達に関連しているため、不足しないように脂質には栄養基準が設けられています。シニア犬の肥満対策のために脂質量を制限する場合がありますが、必須脂肪酸が不足するほど脂質を減らしてはいけません。脂質は、食事の嗜好性にもかかわってくるため、食の細くなったシニア犬の食欲増進に用いることもできます。

④ナトリウム

 ナトリウムは、人間の心血管疾患と高血圧の関連から、シニア犬の健康を心配する飼い主にとって気になる栄養素ですが、人間にとっても犬にとっても必須栄養素であり、不足してはいけません。日本人の食事摂取基準では、ナトリウムは不足するよりも摂取量が多く生活習慣病が懸念されるため、摂取量を減らすための目標量が設定されています。犬の栄養基準では不足しないように最小量が定められており、この量を上回るようにドッグフードは作られています。人の食品では食塩相当量としてナトリウムの量を表示している場合が多いですが、ドッグフードではナトリウム量まで表示しているフードは少なく、ナトリウム量が心配な場合は、公表しているフードを利用するといいでしょう。循環不全を生じさせるような深刻な心臓病があるとナトリウム量を制限した食事が必要ですが、健康なシニア犬は通常のナトリウム量のフードで問題ありません。

⑤エネルギー(カロリー)

 太りやすいシニア犬にはカロリーの低い食事、反対に、食が細かったり瘦せやすいシニア犬にはカロリーの高い食事があります。多くのドッグフードにはカロリーが記載されています。通常、ドライのドッグフードは100gあたり約350~400kcalです。ダイエット(減量)の必要な犬には、100gあたり350kcal前後にカロリーを抑えたドッグフードが、一方、体重を増やしたい犬には、100gあたり400kcal前後のドッグフードがいいでしょう。カロリーの低いフードは食物繊維などでかさを増しているため便が増え、高カロリーのフードは脂質量でカロリーを増やしている場合が多く、ドッグフードを変更した際には、便など体調の変化に気をつけましょう。

⑥その他

 免疫力や抗酸化能に関わる亜鉛やビタミンEは、シニア犬の食事にすすめられる栄養素ですが、総合栄養食のドッグフードであれば、十分量含まれています。

シニア犬のための市販ドッグフードと手作りごはん

 市販のドックフードのパッケージには、「総合栄養食」、「一般食」、「副食」、「栄養補完食」のような表示があります。毎日与える食事には、栄養的にバランスのとれたものである「総合栄養食」と表示されたフードを選びましょう。

 市販のドッグフードには、成犬用とは別にシニア犬用のドッグフードを用意しているメーカーもあります。健康なシニア犬であれば今まで通りの成犬用のままの食事でも問題ありません。シニア犬用のドッグフードは、消化性を上げたり、タンパク質のような栄養素量やエネルギー量を調整したり、各メーカーでさまざまな配慮が行われています。現在使用中のドッグフードと比較しながら、それぞれの犬の状態に合わせてフードを選びましょう。

 個々のシニア犬に合わせた食事には、市販のドッグフード以外に各家庭で作る手作り食もあります。どちらも必須栄養素が過不足なく含まれることが望ましいのですが、手作り食では私たち人間が食べる食品のみで犬の栄養バランスをとることは難しく、特にカルシウムや亜鉛などミネラルは不足することが多いためサプリメントが必要です。シニアになると栄養素の過不足に対応する能力は低下していることが予想されます。手作り食を行う場合は、栄養素量の計算を行い、食材やサプリメントの種類と量を決めましょう。

シニア犬に多い病気のための栄養管理

 シニア犬に多い病気には慢性腎臓病、肥満、歯周病、心臓病、関節炎、癌などがあり、複数の病気を持っている場合もあります。同じ病気でも、それぞれの犬でその進行度や食欲への影響には違いがあり、その犬の食事の好みも異なります。病気のときの栄養管理は、より一層、それぞれの犬に合わせなくてはいけません。シニア犬が病気の場合は、シニア犬のことを理解しているかかりつけの先生と一緒に栄養管理は行いましょう。

 病気の栄養管理は治療の補助に過ぎない場合もありますが、栄養管理を行うことで病気の改善を促し、病気の進行を遅らせることができる場合もあります。また、誤った食事は病気を進行・悪化させる場合もあり、病気の際に食事内容を見直すことはとても重要です。

シニア犬へのサプリメント

 シニア犬のためにさまざまなサプリメントがあります。

 総合栄養食のドッグフードには栄養素の不足が生じないようにビタミンやミネラルが十分に含まれているため、栄養素の不足を解消するためのビタミンやミネラルのサプリメントは、通常、必要ありません。追加でサプリメントを与えると過剰になってしまうかもしれません。

まとめ

 シニアになった大切なわんちゃんのために、ドッグフードや手作り食、サプリメントに悩む飼い主は少なくないでしょう。市販の製品には、そのような飼い主が悩まないでいいように、パッケージに対象年齢、配慮した栄養素や成分が記載されています。すべてのわんちゃんがその対象年齢でフードを変更する必要はありませんが、このような製品を選ぶことで体調のよくなる場合があるかもしれません。現在食べている成犬用の食事のままで多くの健康なわんちゃんは問題ありません。人間の高齢者の懸念点をシニア犬に取り入れることはよいことですが、犬と人間は代謝(栄養の消化・吸収・体に取り込んだ後の流れ)が異なる部分もあるため、人間の栄養の考えすべてをそのまま当てはめることはできません。人間同様、血液検査は食事を考える上で大切です。貧血の有無や腎臓や肝臓など内臓の検査を1年以上実施していないのであれば、動物病院で検査を行い、食事の相談をしましょう。身体検査や血液検査などに問題がなければ、食事変更はしないでいいかもしれません。検査で異常が見つかっても、対策をとることができ、よりよい栄養管理を行うことができます。

 シニア犬のシニアの程度は個体差が大きく、シニア犬専用の栄養基準はありません。それぞれのわんちゃんの今までの病気や現在の病気、そしてみなさんの日頃の観察と動物病院で行った検査結果を合わせて、食事を探してみてください。